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吾輩は猫である

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书籍名:《吾輩は猫である》    作者:夏目漱石



これでは一手専売の昼寝も出来ない。何かないかな、永らく人間社会の観察を怠(おこた)ったから、今日は久し振りで彼等が酔興に齷齪(あくせく)する様子を拝見しようかと考えて見たが、生憎(あいにく)主人はこの点に関してすこぶる猫に近い性分(しょうぶん)である。昼寝は吾輩に劣らぬくらいやるし、ことに暑中休暇後になってからは何一つ人間らしい仕事をせんので、いくら観察をしても一向(いっこう)観察する張合がない。こんな時に迷亭でも来ると胃弱性の皮膚も幾分か反応を呈して、しばらくでも猫に遠ざかるだろうに、先生もう来ても好い時だと思っていると、誰とも知らず風呂場でざあざあ水を浴びるものがある。水を浴びる音ばかりではない、折々大きな声で相の手を入れている。「いや結構」「どうも良い心持ちだ」「もう一杯」などと家中(うちじゅう)に響き渡るような声を出す。主人のうちへ来てこんな大きな声と、こんな無作法(ぶさほう)な真似をやるものはほかにはない。迷亭に極(きま)っている。


いよいよ来たな、これで今日半日は潰(つぶ)せると思っていると、先生汗を拭(ふ)いて肩を入れて例のごとく座敷までずかずか上って来て「奥さん、苦沙弥(くしゃみ)君はどうしました」と呼ばわりながら帽子を畳の上へ抛(ほう)り出す。細君は隣座敷で針箱の側(そば)へ突っ伏して好い心持ちに寝ている最中にワンワンと何だか鼓膜へ答えるほどの響がしたのではっと驚ろいて、醒(さ)めぬ眼をわざと(みは)って座敷へ出て来ると迷亭が薩摩上布(さつまじょうふ)を着て勝手な所へ陣取ってしきりに扇使いをしている。